【UFC323】ヘンリー・セフード現役引退|レスリング五輪金×UFC二階級制覇の怪物の正体
UFC323を最後に、ヘンリー・セフード(Henry Cejudo)がついにグローブを置きました。
オリンピック金メダリスト、UFC二階級制覇、そして“Triple C(トリプル・シー)”という異名。
Triple C(トリプル・シー)とは、
オリンピック金メダリストチャンピオン
UFC フライ級チャンピオン
UFC バンタム級チャンピオン
3つのChampionになったことで、Triple C(トリプル・シー)と呼ばれています。
格闘技ファンなら誰もが知るレジェンドですが、UFC初心者にとっては、
「なんか凄い人っぽいけど、何がどれくらいヤバいの?」
と感じている人も多いはずです。
この記事では、
- ヘンリー・セフードとはどんな選手だったのか?
- オリンピック金メダルとUFC二階級制覇がなぜ“人類トップレベル”なのか?
- なぜUFC323での引退が、ひとつの時代の区切りだと言われるのか?
を、なるべく専門用語をかみ砕きながら、初心者にも分かりやすくストーリーで解説していきます。
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目次
- まず前提|UFCと「階級」とは何か?(初心者向けおさらい)
- ヘンリー・セフードとは何者なのか?|異例すぎるスタート地点
- MMA転向|「世界最強レスラー」がケージに立つまで
- フライ級新王者へ|歴史が動いたリマッチ
- T.J.ディラショー戦と“32秒TKO”の衝撃
- バンタム級制覇で二階級制覇を達成|UFC 238 セフードが“史上4人目”になった伝説の一戦
- バンタム級王者としての防衛と、“最初の引退”という衝撃
- カムバック後の現実|トップレベルだからこその厳しさ
まず前提|UFCと「階級」とは何か?(初心者向けおさらい)
ヘンリー・セフード(Henry Cejudo)の凄さを理解するために、まずは「UFC」と「階級」の話から簡単に整理しておきます。
- UFC(Ultimate Fighting Championship)
→ 世界最高峰の総合格闘技(MMA)団体。サッカーでいうところの“チャンピオンズリーグ”、野球でいう“MLB”クラスの舞台。 - MMA(総合格闘技)
→ 打撃(パンチ・キック)+組み技(レスリング・柔術など)を組み合わせたルール。立っても寝ても攻防が続くのが特徴。 - 階級制
→ 安全性と公平性のために、体重ごとにクラスが分かれている。
フライ級(56.7kg)、バンタム級(61.2kg)など、軽い階級ほどスピードと技術のレベルがとんでもなく高い。
その中で「世界王者」になるということは、
「その階級の地球上で一番強い男」
と認められるのとほぼ同じ意味です。
ヘンリー・セフードは、この“世界一のイス”を、なんと二つの階級で手に入れました!
ここからすでに、常識外れのキャリアが始まります。
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ヘンリー・セフードとは何者なのか?|異例すぎるスタート地点
ヘンリー・セフード(Henry Cejudo)は、アメリカ出身の総合格闘家。
しかし、彼の物語はUFCから始まったわけではないんです。
彼の原点は「レスリング」です。
レスリングは、オリンピック正式種目として長い歴史を持つ、超伝統的な格闘技。
そこでセフードは、2008年・北京オリンピックのフリースタイル55kg級で金メダルを獲得します。
しかもただの金メダルではなく、
当時21歳にしてアメリカ史上最年少のレスリング金メダリストとなりました。
この時点で、すでに“伝説の始まり”なんすよね。
多くのUFCファイターは、
- 学生レスリングや柔術で実績を積んでいく
- 地方団体や小さい大会でキャリアを積む
- UFCにスカウトされる
というステップを踏んで、プロの道をスタートさせるのですが、
セフード場合は、
「オリンピック金メダルリスト」という“世界の頂点”を経験してからMMAの世界にやって来た、かなり特殊な存在でした。
スタート地点からして、すでに他の選手とは次元が違っていたわけですね。
レスリング金メダルの何がそんなに凄いのか?|人類トップ数人の世界
「オリンピック金メダルって、そりゃ凄いよね」
ここまでは多くの人がイメージできると思います。
でも、実際はそのイメージを何倍も上回る“地獄の頂上”です。
レスリングは、
- 競技人口が世界的にめちゃくちゃ多い
- 国の威信をかけてエリート育成される
- 身体能力だけでなく、技術・戦略・メンタルすべてが要求される
という、超ハイレベルな競技です。
その中で、「オリンピックで金メダルを取る」ということは、
同じ階級の中で
その年の
世界最強選手!
であることの証明しているんです!
しかもセフードの場合は、
若くして金メダル
軽量級でスピードとテクニックのレベルも異次元レベル!
という条件付き。
要するに、
「組み技に関しては、人類のてっぺんクラス」
ということになります。
そのレベルのレスリング能力を持った選手が、
打撃も覚えて、プロのMMAで戦い始めたのが、ヘンリー・セフードという男の“出発点”です。
MMA転向|「世界最強レスラー」がケージに立つまで
オリンピックで金メダルを獲った選手は、
そのまま競技のコーチになったり、競技キャリアを終えるケースも多いんですが、
しかしセフードは、あえて新しい世界 ―― 総合格闘技(MMA)へと飛び込みました。
当然、ここではレスリングだけでは勝てません。
- パンチ(ボクシング)
- キック(ムエタイやキックボクシング)
- 関節技・絞め技(ブラジリアン柔術)
など、まったく別のスキルセットを1から覚える必要があります。
ただし、ベースがレスリング金メダリストなので、
「組みの攻防」「テイクダウンの攻防」「ケージレスリング」といった場面では、いきなり世界トップクラス!
これは他の選手からすると、かなりの脅威!
それでも最初から無双したわけではなく、
打撃の距離感や、MMA特有の展開に慣れるための時間が必要でした。
ここがまた、人間味があって面白いところでもあります。
UFC参戦、そして最初の挫折|絶対王者デメトリアス・ジョンソンの壁
セフードはUFCと契約し、フライ級(56.7kg)で頭角を現していきます。
フライ級は「軽くて小さいから迫力がない」と誤解されがちですが、実際は逆で、
- スピード
- 手数
- テクニック
がとんでもなく高く、上級者ほどハマってしまう階級!
そして彼の前に立ちはだかったのが、
当時“史上最強のフライ級王者”とも言われていたデメトリアス・ジョンソン(Demetrious Johnson)
- スピード
- 頭脳(ファイトIQ)
- スタミナ
- 打撃と組みのつなぎ
どれを取っても完成度が高い、まさにボスキャラのような存在!
セフードはこの絶対王者に挑みますが、結果は完敗…
世界の壁の厚さを思い知る一戦となります。
普通ならここでメンタルが折れてもおかしくありません。
「自分でもダメなのか…」と限界を感じても不思議ではないんですが、
セフードはここから“ギアをさらに一段上げる”決断をし、行動していきます。
レスリング × ボクシングの怪物へ進化|「終わらない二択」の完成
敗戦後のセフードは、ひたすら自分をアップデートしていきます。
- ボクシング技術の徹底強化
- 距離の取り方、ステップワークの修正
- 打撃から組み、組みから打撃へのつなぎ
- フィジカルとスタミナの強化
に取り組んだ結果こうして、
「いつでもテイクダウンできるレスラー」+「普通に打撃でも倒せるストライカー」
という、非常に厄介なスタイルが出来上がりました!
対戦相手からすると、
打撃に集中すると、タックルでテイクダウンされる
テイクダウンを警戒すると、パンチやキックをもらう
という“終わらない二択”を延々迫られることになります。
「どっちも強い」選手は多いですが、
セフードの場合は、そのレベルが世界トップクラス。
このバランスの高さが、彼の恐ろしさになりました。
フライ級新王者へ|歴史が動いたリマッチ
2018年、セフードは再びデメトリアス・ジョンソン(Demetrious Johnson)に再挑戦するチャンスを掴みます。
以前は完敗した相手…
しかし、この試合では別人のようなパフォーマンスを見せます。
- レスリングで主導権を握りつつ
- 打撃でもプレッシャーをかけ
- 5ラウンドを通して競り勝つ
結果はスプリット判定ではあったものの、見事勝利を掴み、そしてリベンジを達成&UFCフライ級新王者に輝きました!
世界最強と呼ばれた王者からベルトを奪ったという事でセフードの評価はさらに上がりました!
こうして、
オリンピック金メダル → UFCフライ級王者
という、世界トップを二度獲る偉業を達成!!
T.J.ディラショー戦と“32秒TKO”の衝撃
そこで満足しないのが、フライ級王者となったセフード!
次に狙ったのは「二階級制覇」!
二階級制覇とは:体重の違う階級で、両方ともUFCのベルトを巻く(チャンピオンになる)こと。
これは、
身体のサイズが変わる
相手のパワー、リーチ、スピードが違う
という難しさがあり、ほんの一握りの選手しか達成できない偉業。
セフードはフライ級のひとつ上の階級・バンタム級の王者T.J.ディラショー(TJ Dillashaw)と対戦。
この試合は、バンタム級王者ディラショーが階級を落として挑んだ、フライ級タイトルマッチ。
多くのファンが「さすがに厳しいだろう」と予想したこの試合で、
セフードは衝撃の32秒TKO勝ちを収めます。
- 開始直後からプレッシャー
- 一気にラッシュをかけてダウンを奪う
- 試合時間はたったの32秒
この勝利により、
フライ級&バンタム級の二階級制覇も視野に入りました!
しかも、インパクト抜群の形で勝利!
バンタム級制覇で二階級制覇を達成|UFC 238 セフードが“史上4人目”になった伝説の一戦
2019年6月8日、UFC 238で行われたのは、ヘンリー・セフードの人生を決定づけた一戦。
この試合に勝てば、UFC史上でもほんの数人しか到達していない「二階級同時王者」という別次元の称号に手が届く。まさに、運命を懸けたタイトルマッチ!
- 大会:UFC 238
- 開催日:2019年6月8日
- 対戦カード:ヘンリー・セフード vs マーロン・モラエス
- 階級:バンタム級タイトルマッチ
- 試合結果:セフードが3R TKO勝ち
試合開始直後、会場は一気にどよめいた。
モラエスのスピードと強烈な打撃がさく裂し、1ラウンド目はセフードが明らかに押し込まれる展開。初心者が見ても「これはかなりヤバい」と分かる苦しいスタート。
しかし、2ラウンド目から空気が完全に変わる。
セフードは持ち前の体の強さとしつこい前進で相手に組みつき、押し倒し、逃がさない。少しずつ、確実に、モラエスの体力を削っていった。
そして迎えた3ラウンド目。
流れを完全に掌握したセフードが一気にラッシュをかける。パンチとヒジの猛攻でモラエスを追い詰め、ついにレフェリーが間に入って試合終!!
まさに「逆転劇」と呼ぶにふさわしいフィニッシュ!!
この勝利によって、セフードは3つを同時に手に入れた!
- UFCフライ級王者のベルト
- UFCバンタム級王者のベルト
- UFC史上4人目となる二階級同時王者
体重の違う階級で2つの世界一になる――これは、普通の格闘家にはまず不可能な偉業。
しかもセフードは、オリンピック金メダルまで持っている。
「オリンピック」「UFC二階級制覇」という常識外れの実績を同時に達成した唯一の男。それがヘンリー・セフードであり、彼が「Triple C(トリプル・シー)」と呼ばれる理由です。
バンタム級王者としての防衛と、“最初の引退”という衝撃
フライ級とバンタム級の二階級を制したセフードは、その後も勢いを止めませんでした。
フライ級王座を保持したまま、
マルロン・モラエス(Marlon Moraes)とのバンタム級王座決定戦に勝利し新王者、そして二階級同時王者に到達!
バンタム級に階級変更しての初防衛戦として
ドミニク・クルーズ(Dominick Cruz)とのタイトルマッチでも完勝し初防衛に成功!
と、王者としての地位を盤石なものにしていきます。
この頃のセフードは、
- 小柄なのに、打撃・レスリング・戦術すべてが超一流
- 誰とやっても負ける気がしない
と評価されるほど、まさに“完成されたチャンピオン”でした。
スピード、パワー、頭脳、そのすべてが噛み合った全盛期だったと言えるでしょう。
そんな絶頂期の中、多くのファンが
「次は誰が挑戦するんだ?」
「何度防衛するんだろう?」
とワクワクしていた、その矢先──
セフードはタイトル防衛直後、突然の引退を表明します。
「やり切ったところで終わる」
そう言わんばかりの決断は、あまりに潔く、あまりに突然でした。
ファンの間には驚きと喪失感が広がり、
「まだ見たかった」「早すぎる」
という声が世界中から上がりました…
最強のまま去る。
それは、誰にでもできる選択ではありません。
この“最初の引退”こそが、セフードという男の異質さと、プロフェッショナルとしての覚悟を強く印象づける出来事となったのです。
“Triple C”という異名の意味|自称ではなく事実
セフードは、自らを「Triple C(トリプルC)」と呼んでいました。
- Olympic Champion(オリンピック金メダル)
- Flyweight Champion(UFCフライ級王者)
- Bantamweight Champion(UFCバンタム級王者)
この3つのCをすべて手にした男。
これは“キャッチコピー”ではなく、完全なる事実です。
格闘技界には、自分を大きく見せるためにビッグマウスを叩く選手も多いですが、
セフードの場合は「実績の方がビッグマウスを超えている」珍しいタイプでした。
カムバック後の現実|トップレベルだからこその厳しさ
いったん引退したセフードですが、
「もう一度やり残したことに挑戦したい」としてカムバックを決断します。
しかし、現役復帰後の道のりは甘くありませんでした…
- アルジャメイン・スターリング(Aljamain Sterling)戦(バンタム級タイトル戦)
- メラブ・ドバリシヴィリ(Merab Dvalishvili)戦
- ソン・ヤドン(Song Yadong)戦(アクシデントも絡んだ敗戦)
トップ中のトップとばかり当たり続けた結果、
勝ち星には恵まれず、連敗が続く形になります。
とはいえ、これは「弱くなった」というよりも、
- ブランクの影響
- 世代交代のスピード
- 常にタイトル戦線レベルの相手とだけ戦っていた
という条件が重なった結果とも言えます。
UFC323|ペイトン・タルボットとのラストファイト
そして迎えたUFC323。
対戦相手は、新世代として期待されているペイトン・タルボット(Payton Talbott)。
若さ・サイズ・勢い、すべてが揃ったアップカマーです。
試合は3ラウンドフルに戦い抜いた末、判定でタルボットの勝利。
セフードは被弾も多く、顔を大きく腫らしながらも、最後まで闘志を切らさずに戦い続けました。
結果だけ見れば「完敗」かもしれません。
しかし、内容としては
- 38歳
- 長いキャリアのダメージ
- 連戦の中でのラストマッチ
という条件を背負いながら、若い世代と真正面からぶつかった“魂の試合”でもありました。
UFC323を最後に引退することを決めていたセフードは、試合前から
「This is it for me(これで終わりだ)」と語り、“Triple C”としての長い戦いのキャリアに、終止符を打つことになりました…
なぜUFC323の引退が“ひとつの時代の終わり”なのか?
UFC323でのセフード引退は、単に「一人の選手が辞めた」という話ではありません。
- オリンピック金メダリスト世代の象徴
- 軽量級の技術レベルを一段引き上げた存在
- フライ級という階級を存続させるきっかけの一人
- 二階級制覇ブームを作った先駆者の一人
こうした要素を持つ選手がケージを去った、という意味で、
「一つの時代が終わった」と表現されます。
さらに、引退試合の相手が“新世代”のタルボットだったことも象徴的で、
かつて若手の挑戦者だったセフードが
今度はベテランとして若手に“バトンを渡す側”になった
とも言える構図でした。
初心者向けまとめ|ヘンリー・セフードの凄さをざっくり言うと?
UFCやMMA初心者の人向けに、セフードの凄さをシンプルにまとめると――
- オリンピックのレスリングで金メダルを取った時点で、人類トップクラス
- そこからさらにUFCで二階級の世界王者になった
- しかもフライ級・バンタム級という、技術レベルの高い軽量級で頂点に立った
- 打撃も組みもトップレベルでこなす“万能型”の完成形に近いスタイル
- ビッグマウスだけど、それを余裕で上回る実績を持っていた
つまり一言でまとめるなら、
「オリンピックでもUFCでも世界一になった、二度と現れないタイプの化け物」
これが、ヘンリー・セフードという選手です。
まとめ|ヘンリー・セフードは“努力で天才をねじ伏せた天才”
最後に、この記事の内容をギュッとまとめると――
- オリンピックレスリング金メダルという、人類トップ数人の世界からスタート
- UFCフライ級王者、バンタム級王者、二階級制覇という前人未踏級の実績
- レスリング × 打撃 × 戦略の三拍子が揃った“軽量級の完成形”のようなスタイル
- 一度目の引退で頂点のまま去り、二度目の引退では新世代にバトンを渡した
- ビッグマウスで物議を醸しつつも、最終的には誰もが実績を認めるレジェンド
ヘンリー・セフードは、
「努力で天才をねじ伏せた天才」
そして
「もう一度同じキャリアをたどる選手はまず現れない」
そんな唯一無二の存在です。
UFC323で彼の現役生活は終わりましたが、
その試合映像とストーリーは、これからUFCを好きになる人にとっても、
ずっと“教科書”のような存在であり続けるはずです。